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Rise after Falling – Nurburgring 24H 2014
Posted by | July 24, 2014

ほとんど、絶望する暇もなかった。

予選1回目、クルマのセットアップは決まっていたし、タイヤは十分すぎるグリップを発揮していて、GT-R GT3は他のクルマが止まって見えるほど快調に北コースを疾走していた。運に左右されるニュルブルクリンクのトラフィックをGT-R GT3は悪くない場所とタイミングでクリアしてきていたから、ラップの半分を過ぎて「このラップはいいぞ、まとめられそうだ」と、クロスタータルに向かう長い全開区間で、私は少しばかり傲慢になっていたんだと思う。

クロスタータルの左高速コーナーを猛然と5速で立ち上がったら目の前にそのクルマはいた。

相当な速度差があり、私は直感的にスペースの空いている左側のラインへと、GT-R GT3を乗せる。レーシングスピードでは考える前に身体が動いている。

その直後、さっきまで空いていた左側のスペースに、ゆらりとそのクルマが動いて、あろうことか、ぱっとブレーキランプがついた。

日産GT-R NISMO GT3 24号車。PHOTO:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

日産GT-R NISMO GT3 24号車。PHOTO:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

2013年のセットアップは柔らかめのスプリングでバランスを取って対バンプ性能を確保しつつ、高速域では地上高ゼロ近くにまで車高が下がり、グランドイフェクトによってダウンフォースを得る、というもので、ハイスピードでマシンが路面に吸い付くのがわかるほど操縦性は良かったものの、レース後にマシンのフロアを見ると、路面との接触でフロアが激しく摩耗しており、仮にエンジンが壊れなかったとしても、どこかでフロアが落ちて、とても24時間は走れなかっただろう。

今年は去年とはマシンのコンセプトをがらりと変えて「いかに固いスプリングでも北コースで跳ねない足を作るか」で、およそニュルブルクリンクを走るレースカーとしては上限に近いハードなスプリングで、イニシャルの車高を可能な限り下げ、前後の空力バランスをミリ単位の車高セットアップで詰めていく。

「ニュルは特別」という迷信は数多くあるが、そういった前提を全部無視して、純粋なレースカーとしての物理の基本に忠実なセットアップがどこまで通用するのか、という試みは成功を納めつつあった。

そんな中での大クラッシュ。
車速は200km/hを超えていただろう。
何度か激しい衝撃が入ってガードレールに張り付いたまま、クルマは止まった。
ちぎれた右フロントタイヤがコース上を跳ねていくのが見えた。

パドックへと回収される24号車。PHOTO:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

パドックへと回収される24号車。PHOTO:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

救急車でアデナウ郊外の緑の中にある病院まで運ばれ、エコーで造影された自分の脾臓をモニターで見ながら、レースの喧噪とはかけはなれた、病院のひんやりとした静けさもニュルブルクリンク24時間レースの一部なんだと、しみじみ思う。

ドクターの診断は、決勝レースへの出走はOK・・・だが、ほぼ全損になったGT-R GT3をどうしよう。

日が暮れた後、病院からテントに戻ると、残骸になったマシンを前に、シュルツ・チームは異様なモチベーションに包まれていた。

トビアスも、ミハエルも、ジョーダンも、「走りたい」という。メカニックもやる気満々で、誰も諦めていない。
絶望するしかないような状況だからこそ沸き上がる異様なモチベーションって、とても人間的で、これがレースの醍醐味だなと思う。

そう、走りたいなら・・・直すしかない。

チームテント前。明け方まで支援の人々の往来が絶えなかった。

チームテント前。明け方まで支援の人々の往来が絶えなかった。

その後、ニスモ、日産、RJN、KW、PIAA、Gazoo Racingをはじめとする、あらゆる知己が一斉に動いてくれて、ボールが何度も跳ね返りながら人から人に気迫が伝染していって、とても集まりそうになかった膨大な修復パーツが、とうとう夜明けに揃った経緯は、まるで深夜のニュルブルクリンクのパドックが巨大な「気持ちのピンボールマシン」になったような感覚だった。

マシンの修理が猛然と始まり、最終予選の15分前にエンジンが始動して、165台が出走した24時間レースを総合14位で走りきる、だなんて、まるで映画のようだ。

最終予選の15分前。スターティンググリッドへ向かうマシンとメカニック。PHOTO:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

最終予選の15分前。スターティンググリッドへ向かうマシンとメカニック。PHOTO:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

ニュルブルクリンクという場所は、人間の感情やドラマ性を一段と輝かせる大きな舞台装置なんだな、と改めて思いました。
怖い思いもしましたが、よい経験をさせていただきました。

ご支援してくださったみなさん、本当にありがとうございました。

山内のドライブでフィニッシュラインを通過。PHOTO:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

山内のドライブでフィニッシュラインを通過。PHOTO:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

 

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